2006年02月05日

Brokeback Mountain (2)

第78回アカデミー賞のノミネートが1月31日に発表になりました。

なんと私の一押しの「Brokeback Mountain (ブロークバック・マウンテン)」

最多の8部門に選ばれました。すごーい!エイサーエイサー

Brokeback Mountain (2)
1月20日のBrokeback Mountainで、既に紹介したんですけど、あまりにもいい映画なので、紹介し足りないのです。もう一度紹介させて下さい。今回は、『ブロークバック・マウンテン』が日本公開になるまえに、是非、知っておいて欲しいと思ったアメリカ社会の背景などを詳しく語ってみます。(注:長いので、準備してから読み始めて下さい。)

アカデミー賞の全ノミネーションのリストは映画生活で見れます。
オスカーの公式サイトはこちら→The 78th Annual Academy Awards


じつは、ゲイの恋愛ということで、批判の声も多かった様です。アカデミー賞の選考会員達も年齢層が高そうですし、もしかして、落とされるのではと不安でした。でも、他の映画祭で数々の賞を独占したくらい評価されてる作品だし、この映画を選ばないようなら、もうアカデミー賞は見る価値ないぞと思ってたくらい気合い入ってました。で、結果は、最多8部門ノミネートで満足です。授賞式の3月5日(日本時間6日)が楽しみです。ニコニコ

この映画の凄いところはいろいろあるんですよ。まず、自然が美しい。ワイオミングの山を見てると泣けてきます。そして、主人公エニスの田舎のカウボーイらしい、無口で、しかもなまりのきつい英語。これが、観客の心をとらえたんじゃないかと思うの。変にかっこよくしゃべると、それだけでうそっぽくなっちゃうじゃないですか。少ない言葉の中に、真実が見えてくるような、素晴らしい演技でしたよ。

それから、エニスの妻役、ミシェル・ウィリアムスの演技の素晴らしさには参りました。そんなに大袈裟な事をして騒ぐのではなく、一人悶々と悩む姿が、とてもリアル。本当に苦しんでる人は、誰にも言えずに内に秘めているのだという事を映画の中で見事に表現してました。ただの脇役以上の活躍をしてました。助演女優賞、いけるとおもうな。実生活では、主人公ヒース・レジャーと一緒に暮らし、一児を授かったそうです。(結婚してるのかは不明。どうなんでしょう。)

さて、この辺から、デープな話になってきますが、アメリカ中西部に根強く残る、「同性愛者はキリスト教に背くという倫理観」の存在です。実は、アメリカという国は一般に私達が思っているほど開放的な訳ではない様です。それは、「レッドステーツ(赤い州)」と「ブルーステーツ(青い州)」の存在。この言葉、最近になってお友達から教えてもらいました。映画の舞台、ワイオミングのある中西部やジャックの住むテキサスも「レッドステーツ」です。

この呼び名は、もともとはブッシュの共和党のイメージカラーが赤、対する民主党のイメージカラーが青ということから来てる様です。でも、単に政治の事だけを示しているのではなく、文化の違い、考え方の違いも意味するのです。説明すると長くなるので、英語タウンというサイトで、ジャーナリストの西森マリー先生の説明を読んでださい。「アメリカン・カルチャーを知る英語講座 1 赤いアメリカ・青いアメリカ」目からうろこが落ちる事、お約束します。

そういえば、日本人が観光するのは都市部のブルーステーツが主流だし、テレビや映画もブルーステーツが舞台、日本に来ているアメリカ人(私の知る限り)もほとんどブルーステーツの人々。アメリカ留学で嫌な思いをした友達の話を聞くと、レッドステーツへ行った人だったりします。アメリカと言っても一般の日本人の知らないアメリカがあるのだという事を、この映画に出会うまで、あまり考えた事なかったですね。

さて、前置きが長くなりましたが、「ブロークバック・マウンテン」のすごさは、このレッドステーツを変えたんです。低予算のインディペンデント映画で、配給予定の映画館も、当初はかなり少なかった様ですが、まず、ブルーステーツでじわじわと人気が出て、その波はレッドステーツへも広がりました。先日、こんな記事がNBCに出ていました。Bush Caught Off Gard By 'Brokeback Mountain' Question 中西部のカンザス州立大学で、演説を行ったブッシュ大統領が、質疑応答の際、「あなたは酪農家ですが、ブロークバック・マウンテンを見ましたか。」と質問されたそうです。答えは、「まだ見ていないが聞いたことがある」とのこと。質問者はすかさず、「とてもいい映画で、きっと気に入るに違いないから、見て下さい」と付け足しました。これは、今までの常識では有り得なかったこと。レッドステーツのカンザスで、ゲイに反対する姿勢をとっている共和党の大統領に、「ブロークバック・マウンテン」を見ろと言ったのです。ね、これって凄い変化でしょ?

それから、もう一つ面白かったのは、メジャーとインディーズの戦いです。大金をはたいて作ったキングコングは、オスカーにノミネートすらされてません。お金の力と、CG技術を駆使して作り出される映画にアカデミーがはっきり「NO」という答えを出しました。その象徴となったのが、「ブロークバック・マウンテン」の最多8部門受賞とその他のインディペンデント系作品の台頭です。表面的な派手さより、その映画の中に込められてる、じわじわとにじみ出る芸術性みたいなのが、より高く評価される様になったような気がします。

これは余談ですが、『ブロークバック・マウンテン』のおかげでワイオミングの観光局に映画のロケ地の問い合わせが殺到しているそうです。'Brokeback' could spark Wyoming tourism boom 実際の撮影は、低予算の関係もあり、カナダで行われたそう。それでも、熱心なファンは『ブロークバック・マウンテン』へ行きたい様です。映画で街が紹介されると、そこに観光客が集まる傾向は強いです。ニューヨークがいつも世界中から注目を浴びるのは、ここを舞台にした映画の制作数に比例してるんでしょうね。

この映画を通して、今まで気がつかなかったアメリカ社会の構造を知る事ができたし、物事をもうちょっと深く考える様になりました。たかが映画、されど映画。芸術の持つパワーは偉大です。

以前の記事下
Brokeback Mountain



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BROKEBACK MOUNTAIN【Strawberry Apple】at 2006年03月04日 01:02
この記事へのコメント
この映画の存在、茶々さんの日記を見て知りました。
シンガポールでは、まだ全然CMすらしてないと思います。
あ~、見て見たい。
大学でブッシュ大統領への質問、うぉぉぉ!って感じです。
果たして、ブッシュ大統領は見ることがあるのでしょうかね?
もし、ここシンガポールで上映されるのであれば見て見たいです。
Posted by サト at 2006年02月05日 17:10
茶々さん、はじめまして!
日本の公式HPのBBSへのコメント、拝読しました。
「ブロークバック・マウンテン」に対するアメリカでのリアルな反応を知ることが出来て感謝しています。
ハリウッドの大味な大作には辟易していましたが、こうした良質の映画の評価が高いことがたいへん嬉しいです。

とっても充実したブログですね、これからじっくりと読ませていただきます。
今後ともよろしくお願いします。
Posted by びあんこ at 2006年02月05日 18:10
★サトさん、
とっても話題ですよ、この映画。もともと低予算で小規模で始めた映画だから、誰もこんなにヒットするとは予想してなかったらしい。じわじわと人気が出て、上映館が増えたんだって。リピーターが多くて、10回以上劇場に見に行った友達もいます。DVDが出るまで待てないらしい。ふふふ。中国本土では上映禁止だって。シンガポールはどうかなあ。監督のアン・リーは台湾人なんですよ。ゴールデングローブ賞の授賞式で中国、台湾、香港の皆さんに旧正月のハッピーニューイヤーを言ってました。是非、機会があったら見てね。

★びあんこさん、
遊びに来て下さって、どうもありがとう。とっても熱心に探求なさってるようで、びっくり。なんだかプロ並みですね。私は、かってきままにいろんな事書いてます。はっきり言えば、まとまりのないブログです。ごめんなさい。この映画はとても良かったし、奥が深かったのでちょっとハマってみました。重症にならないうちに足を洗おうと思います。また、別の映画もリビューしてみます。よろしくお願いします。
Posted by 茶々 at 2006年02月05日 23:09
とても興味深く読ませていただきました
ことしのアカデミーは決定ですな、こりゃ

ところで、カンザス州ってめちゃ田舎ですわね、
たとえば、ウィチタとか

(とかいってワタクシもぜんぜん田舎育ちだす 汗)
Posted by ロボ太 at 2006年02月05日 23:27
ゲイがファッションになる街と、そうでない街というのは確かに存在しますね。
それと、ゲイを認めないとヤバいという風潮も出てきていると思います。
この映画に投票しないと、進歩的ではないというレッテルを貼られるとかね。
DC在のアメリカ人の親友が「やっと僕達の本当の事を描いた映画ができた」って言ってました。この映画、絶対観ます。
Posted by zoe at 2006年02月06日 00:22
まだこの映画観ていないんですが、こんな背景もあったんですね~
カウボーイ、ゲイの映画くらいしか知らなかったんですが
今度観に行きたいと思います^^
Garth BrooksとGeorge Straitが好きな琉球侍です。
Posted by 琉球侍 at 2006年02月06日 03:38
映画も良さそうですが、茶々さんのこの文章も凄い、と思いました。
Posted by TARO at 2006年02月06日 07:45
★ロボ太さん、
ウィタチって知らないんですけど、食べられるの?
相当盛り上がってるから、無視できないんじゃないかと思う。
へんに無視すると、アカデミー賞自体がしらけるもんね。
沖縄にもいっぱい田舎ありますよ。

★zoeさん、
アメリカの差別問題は、想像以上に深いのだと思う。動機がどうであれ、「ゲイを認めないとヤバいという風潮」はもっと強くなって欲しいと思う。まだ足りないんだと思うの。ブローク...が支持されたのは、それがとても美しい恋愛映画だったからだと思うし、その主人公がたまたまゲイで、たまたまカウボーイだったんです。だから、ゲイじゃない人達にも、ゲイの気持ちがやっと理解できたんじゃないないかと思います。人間のベーッシクな部分に語りかけるって感じ。ネタバレするのも嫌なので、この辺にしておきます。見たらきっと私の言いたい事理解してもらえると思います。そうしたら、一緒に語ろうね。

★琉球侍さん、
東京で始まるのが3月4日だから、沖縄に来るのはまだ時間かかりそうかな。でも、来たら見てね。Garth BrooksとGeorge Straitはカントリーシンガー?よく知りません。ごめんね。

★Taroさん、
色々調べてたら、つい力が入ってしまいました。はは。
他にも、色々考えてる事があるけど、きりがないから、
この辺で切り上げときます。あとは、皆様ご自身で感じて下さい。
Posted by 茶々 at 2006年02月06日 10:34
茶々様、カーボウイのゲイの話ってこの作品かぁ。
オススメなのですね?
では、早速!!レンタルで準新作になった頃に観るとします。
今頃、OLD BOY観たり、モンスターも週末に借りてくるワタシですが
何か?
Posted by カータン at 2006年02月06日 20:52
こんにちわ、BBMのオフィシャルサイトから飛んできた、現在コロラド州に住むものです。
ここにきて4年以上なりますが、アメリカがブルーと赤に二分されてただなんて、知りませんでした。目からウロコです!
リンク先の西森マリーさんの説明、凄くわかりやすくてためになりました。
ありがとうございます。

さて、映画ですが、ここコロラドでは、昨年の公開時はたったの一軒のみでした。
そのため、BBMを観るために、わざわざ首都のデンバーまで高速を一時間かけていかなければなりませんでした。
んが、ここにきていきなり拡大公開になり、僕の住む街でも気楽に見れるようになりました。
こないだ二回目を観て来たのですが、一回目よりも話の道筋がわかって、映画が終る頃には涙がダダ漏れでした。

アカデミー賞、できるだけたくさんの賞をとってもらいたいものです。
個人的には、エニースの奥さん役を演じた、ミシェル・ウィリアムズに頑張って欲しいです。
彼女の演技は、素晴らしかったと思いますです。
Posted by POM at 2006年02月07日 18:16
★カータン
あー、お返事まだだった。ごめんね、カータン。
うん、面白かったから、いつか必ず見てね。

★POMさん、
BBMのサイトから来てくれたんですね、ありがとう。お返事遅くなってごめんなさい。レッドとブルーの話、私も友達に言われるまで気がつきませんでした。ネットサーチしたら西森マリー先生のわかりやすい説明をみつけました。住んでても、知らない事はたくさんあるんですよね。私も、ミシェル・ウィリアムズに賞をとって欲しいな。ゴールデングローブ賞の時にちらっとテレビに映ってましたが、なんだか、垢抜けてとっても素敵でした。
Posted by 茶々 at 2006年02月10日 15:28
茶々さん
お久しぶりです。
本日は「ブロークバック・マウンテン」のコメントに考えさせられました。
さいきんはゲイの方の書き込みもあって盛り上がっているのですが、例のシーンで笑いが出たり、他者の痛みに鈍い人がまだまだ多いですよね。もちろん自分自身も反省しなければいけないのですが。

拙ブログの「BBM」のリンク先に、だいぶ前からこちらを入れさせていただいてます。ご報告が遅れて申し訳ありません。
今後ともよろしくお願いします。
Posted by びあんこ at 2006年03月11日 19:27
★びあんこさん、
また来てくれて、ありがとう。リンクにまで入れてくれたんですね。
嬉しいです。ビアンコさんのところにもコメント残しますね。
わたしも、「BBM」には、こだわってみたいので、また新しい
記事をアップしますね。
Posted by 茶々 at 2006年03月12日 14:53
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